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『りんごの木の上のおばあさん』クリニックのロゴに込めた願い

みなさんは、子供の頃に大切にしていた「心の中の友達」や「理想の世界」があったでしょうか。
私には、小児科医としての原点とも言える、一冊の大切な童話があります。ミラ・ローベの『りんごの木の上のおばあさん』というお話です。

主人公の少年アンディには、おばあさんがいません。友達がみんなおばあさん自慢をするのを寂しく思っていた彼は、庭のりんごの木の上で、自分だけの「理想のおばあさん」を空想します。そのおばあさんは、アンディが欲しいものを何でも持っていて、一緒に草原で虎狩りをしたり、海賊と戦ったり、何でも思い通りに楽しく遊んでくれる完璧な存在でした。

しかしある日、アンディの隣の家に、片足が不自由で少し頑固な、一人暮らしのおばあさんが引っ越してきます。彼女は空想のおばあさんのように空飛ぶ車は持っていませんが、アンディに助けを求め、一緒にジャムを作ったり、靴下を繕ったりします。アンディは、木の上での「理想の冒険」と、地上での「不器用な現実の交流」の間で揺れ動きながら、少しずつ成長していくのです。物語の最後の一行、おとなになった私にも心にささる一文です。そうやって人間は生きてゆくんだという、原動力になる一文です。児童文学ってだからすごいですよね。

リンゴって聖書にもありますけれど、象徴的な木です。私もこの本を読んでからしばらくは、実家の桃の木によく登っていました。木の上って、なにか童心に帰るのか、原点回帰なのか、猿の祖先の思い出なのか、特別な哀愁とか癒やしがありますよね。

私のクリニックのロゴには、この物語から受け取ったメッセージを込めています。

中心には「こどもの顔」があり、それを大きな「木」が支えています。この木は、親御さんや私たち地域の大人の手、そしてこれまで人類が築いてきた智慧と歴史の象徴です。そして枝には、心と体の栄養となる糧である「リンゴ」が実っています。

ここで大切にしたいのが、周囲を舞う青い鳥と、遠くで光る黄色の星です。

ロゴの中の「青い鳥」は、アンディが木の上で見つけた「理想」の象徴です。もしかしたら、現代を生きる子供たちにとって、それはゲームの世界や、ネットの中の居場所、あるいは自分の空想かもしれません。現実の人間関係に疲れ、不登校や引きこもりの中でこうした「理想の世界」に逃げ込んでしまう子供たちもいますが、私たちは安易に否定したくはありません。アンディにとっての理想のおばあさんがそうであったように、理想の世界は、傷ついた心を癒やし、再び歩き出すためのエネルギーを蓄える「心の安全基地」になるからです。

けれど、いつまでも空を飛んでいるだけでは、本当の意味でお腹を満たすことはできません。空想のおばあさんと遊んで元気をもらったアンディが、最後には木から降りて、隣のおばあさんのためにリンゴを剥いたように、私たちは子供たちがいつか自らの足で「現実」という地面に降り立つことを支えたいと考えています。

現実の世界は、思い通りにならないことばかりです。ぶつかり合い、誤解され、自分とは違う他人の価値観に戸惑うこともあるでしょう。しかし、その「ままならなさ」こそが、実は人生を豊かにしてくれます。不器用な他者と触れ合い、誰かの役に立ったり、意外な優しさに触れたりしたときに、ロゴの四隅に描いた「黄色の星」、すなわち、将来への本当の希望が輝き出すのです。

理想の世界(青い鳥)で心を休め、栄養(リンゴ)を蓄え、大人たち(木)に見守られながら、自分のペースで現実の星を掴みに行く。そんな健やかな循環を、このクリニックで一緒に育んでいきたいと願っています。

私たちは、あなたが再び自分の力でリンゴを味わい、星を見上げられるようになるまで、根を深く張った大きな木のように、ここでずっと待っています。そんな思いでロゴを作成しました。クリニックにお越しの機会があれば、どうぞロゴをみて思いを受け取っていただければとても嬉しいです。